プライムス

大学院生の数学ノート

Poissonの和公式とテータ関数のモジュラー関係式

数論における重要公式Poissonの和公式を証明します。さらに応用としてリーマンゼータ関数関数等式の証明にも応用できるテータ関数のモジュラー関係式と呼ばれる等式を証明します。

Fourier級数展開とFourier変換

Poissonの和公式はFourier級数展開とFourier変換に関連する公式です。ここではFourier級数展開とFourier変換について簡単に紹介します。

まずFourier級数展開についてです。f(x)を周期Lの実変数複素数値関数とします。つまり f(x)=f(x+L)が成り立っているということです。この時
\begin{align}
c_n=\frac{1}{L}\int_0^{L}f(y)e^{-2n\pi i y/L}dy
\end{align}と定めこれを f(x)の第 n Fourier係数と呼びます。

以下の議論において整数全体を走る無限和は
\begin{align}
\sum_{n \in \mathbb{Z}} =\sum_{-\infty}^{\infty}=\lim_{N\to \infty} \sum_{n=-N}^N
\end{align}を意味しています。

定理(Fourier級数展開)

f(x)が周期 Lの関数であって点 xで微分可能なら
\begin{align}
f(x)=\sum_{n\in \mathbb{Z}}c_ne^{-2n\pi i x/L}
\end{align}が成り立つ。

さらにFourier変換を定義します。
実変数複素数値関数 f(x)に対して
\begin{align}
\widehat{f}(\xi )=\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-2\pi i x \xi }dx
\end{align}を f(x)のFourier変換と呼びます。

Fourier級数展開、Fourier変換ともに解析学のかなり重要な位置を占めていて合わせてFourier解析や調和解析などと呼ばれています。かのTerence Taoも専門は調和解析を選択したようです。*1

さてFourier級数展開とFourier変換。眺めているとずいぶんと似ているような気がします。そこでこの二つの間になにか関係が成り立つんじゃないかと思うのは自然ですね。その解答がPoissonの和公式です。

Poissonの和公式

ではPoissonの和公式を証明します。

定理(Poissonの和公式)

C^1級関数 f(x)f(x)=O(|x|^{-1-\delta})をある \delta {>}0に対して満たすとする。このとき
\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}f(n)=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\widehat{f}(n)
\end{align}が成り立つ。

証明 関数 F(x)
\begin{align}
F(x)=\sum_{k \in \mathbb{Z}}f(x+k)
\end{align}と定める。f(x)に対する仮定より F(x)\mathbb{R}上一様収束する。したがって F(x)C^1級である。このとき Fの変数を1ずらしても和は整数全体を走るから

\begin{align}
F(x+1)=\sum_{k\in \mathbb{Z}}f(x+k+1) =F(x)
\end{align}
となることがわかる。つまり F(x)は周期1の微分可能な関数である。
そこで F(x)の第 n Fourier係数を計算すると
\begin{align}
c_n&=\int_0^1F(y)e^{-2n\pi i y}dy \\
&=\sum_{k\in \mathbb{Z}}\int_0^1f(y+k)e^{-2n\pi i y}dy
\end{align}y+k=xと変数変換すれば
\begin{align}
&=\sum_{k\in \mathbb{Z}}\int_k^{k+1}e^{-2n\pi i x}dx \\
&=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-2n\pi i x}dx =\widehat{f}(n)
\end{align}と計算できる。F(x)をFourier級数展開すると
\begin{align}
F(x)=\sum_{k\in \mathbb{Z}}f(x+k)=\sum_{n\in \mathbb{Z}}c_ne^{2n\pi i x}=\sum_{n\in \mathbb{Z}}\widehat{f}(n)e^{2n\pi i x}
\end{align}
この式に x=0を代入すれば主張の式を得る。(QED)

テータ関数のモジュラー関係式

Poissonの和公式の重要な応用であるテータ関数のモジュラー関係式を証明します。以下、複素数 z=x{+}iyに対して複素数の部分集合 H
\begin{align}
H=\{ z \in \mathbb{C} | y>0\}
\end{align}と置きます。Hは上半平面と呼ばれます。このとき
\begin{align}
\theta (z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{\pi i n^2 z} \quad (z \in H)
\end{align}と定め、これをテータ関数といいます。絶対値をとれば
\begin{align}
{|}\theta (z) {|} \le \sum_{n \in \mathbb{Z}} e^{-\pi n^2y}
\end{align}となるので \theta (z)H上で広義一様に絶対収束することがわかり H上の正則関数になります。
さて、テータ関数のモジュラー関係式とは次の公式のことを言います。

定理(テータ関数のモジュラー関係式)

任意の z\in Hに対して
\begin{align}
\theta \Big{(}-\frac{1}{z}\Big{)}=\Big{(}\frac{z}{i}\Big{)}^{1/2}\theta (z)
\end{align}が成り立つ。

H上の関数のうち上記モジュラー関係式に類する関数等式を満たすものはモジュラー形式と呼ばれます。テータ関数はモジュラー形式の一例となります。その意味で上の関係式はモジュラー関係式と呼ばれます。ところでそもそもモジュラーってどういう意味なんでしょう...。

モジュラー関係式は次のより一般的な補題から即座に導くことができます。この補題自体もDirichletのL関数の関数等式を導く際に用いられます。

補題

任意の x {>}0, \alpha \in \mathbb{R}に対して

\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{-(n+\alpha )^2\pi /x}= x^{1/2}\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{-n^2\pi x+2\pi in\alpha}
\end{align}
が成立。

補題の証明 関数 f_{\alpha, x} (y)
\begin{align}
f_{\alpha, x}(y)=e^{-(y+\alpha )^2\pi /x}
\end{align}と置く。これにPoissonの和公式を適用すると

\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}f_{\alpha ,x}(n) =\sum_{n\in \mathbb{Z}}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-(y+\alpha )^2\pi /x-2\pi iny} dy
\end{align}
積分変数を y+\alpha =xuと変換すると
\begin{align}
=x\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{2\pi i n \alpha } \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\pi x u^2-2 \pi i n x u}du
\end{align}となる。 被積分関数の指数部分は平方完成により
\begin{align}
{-}\pi x u^2-2 \pi i n x u =-\pi x (u+in)^2 -n^2\pi x
\end{align}
となるから
\begin{align}
=x\sum_{n=-\infty}^{\infty} e^{-n^2\pi x+2\pi i n \alpha}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\pi x(u+in)^2}du \label{ast}
\end{align}
となる。\eqref{ast}の最後の積分を複素積分と積分値を求める。
まず n \ge 0のとき、下の図1のように曲線 C_N-N+in からスタートし N+inまで進む直線とすると\eqref{ast}の積分は
\begin{align}
=\lim_{N\to \infty} \int_{C_N}e^{-\pi x z^2}dz
\end{align}とかける。さらに被積分関数は正則関数であるから積分路を C'_Nに変形できて
\begin{align}
=\lim_{N\to \infty}\int_{C'_N}e^{-\pi x z^2}dz \label{ken}
\end{align}となる。

f:id:MathNote:20200424142828p:plain
図1

ここで C'_N上の積分のうち最後の Nから N+inまでの虚軸に沿った積分路の部分の絶対値を計算すると、任意の n \ge 0に対して

\begin{align}
\int_0^n e^{-\pi x (N+it)^2}idt &=ie^{-\pi x N^2} \int_0^n e^{-2\pi i N xt +t^2}dt \\
&\ll e^{-\pi x N^2} \to 0 \quad (N\to \infty)
\end{align}
が成立。同様に  -N+inから -Nまでの積分も0に収束する。したがって\eqref{ken}は
\begin{align}
=\lim_{N\to \infty} \int_{-N}^Ne^{-\pi x t^2}dt=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\pi x t^2}dt
\end{align}
変数を t=u/\sqrt{\pi x}と変換すれば
\begin{align}
=\frac{1}{\sqrt{\pi x}}\int_{-\infty}^{\infty}e^{-u^2}du=\frac{1}{\sqrt{x}}
\end{align}となる。ただし最後はガウス積分による。同様に n{<} 0のとき\eqref{ast}の積分は x^{-1/2}となる。
以上の計算を\eqref{ast}に代入すれば
\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}f_{\alpha ,x}(n)=x^{1/2}\sum_{n=-\infty}^{\infty}e^{-n^2\pi x+2\pi in\alpha}
\end{align}
となり補題の主張が得られる。(QED)

補題の公式と複素関数論における一致の定理よりテータ関数のモジュラー関係式が示されます。

モジュラー関係式の証明 補題の式で \alpha =0とすれば
\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{-n^2 \pi /x}=x^{1/2}\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{-n^2\pi x}
\end{align}となる。これを少し書き換えると

\begin{align}
\sum_{n\in \mathbb{Z}}e^{\pi i n^2/(-ix)}=\Big{(}\frac{ix}{i}\Big{)}^{1/2}\sum_{n\in \mathbb{Z}} e^{\pi i n^2 (ix)}
\end{align}
となりテータ関数の定義よりこれは
\begin{align}
\theta \Big{(}-\frac{1}{ix}\Big{)} =\Big{(}\frac{ix}{i}\Big{)}^{1/2} \theta (ix)
\end{align}となる。したがって z=ix \; (x>0)のときは主張のモジュラー関係式が成り立つ。主張のモジュラー関係式の両辺は明らかに H上の正則関数であるから複素関数論における一致の定理よりモジュラー関係式は H上で成り立つことがわかる。(QED)

おわりに

Poissonの和公式とその応用を考えました。ここで出てきた補題はリーマンゼータ関数やL関数の関数等式を導くのにとても便利です。さらにテータ関数はモジュラー関係式によってモジュラー形式、あるいは保型形式という数論における重要な分野へとつながる超重要な関数です。

参考文献

(1) 素数とゼータ関数 (共立講座 数学の輝き)

この本の特徴は、初等的に扱える素数の分布に関する解説が豊富なことです。初めの方ではChebyshevやMertensなどによる古典的な事実が証明とともにたくさん紹介されています。中盤は伝統的な複素関数論による素数定理と算術級数中の素数の素数定理が書いてあり、後半ではより発展的な「深いリーマン予想」と呼ばれる内容について書かれています。複素関数論を学んでこれから解析数論をやるぞって方にお勧めの和書です。

(2) Multiplicative Number Theory (Graduate Texts in Mathematics 74)

リーマンゼータ関数、L関数の理論をコンパクトにまとめた一冊。さらに後半では篩法も学ぶことができます。様々な文献に引用されていて、解析数論を学ぶなら一度は読んでおきたい本になっています。内容も基本的には数学科の学部レベルの内容で読めるようになっています。解析数論の標準的なテキストと言えると思います。

*1:Taoのブログ Terence Tao | What's newはとても勉強になります。