プライムス

大学院生の数学ノート

Maynardの論文に出てくるある和の評価について

James Maynardの双子素数に関する論文「Small gaps between primes」を勉強していたら
\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2 \tau_k(n)}{\varphi (n)}
\end{align}という和の評価を使っていました。これについて紹介します。

予備知識

上に書いた和の中にでてきた関数についてですが、まず \varphi (n)はEulerのトーシェント関数で \mu (n)はMöbius関数です。\tau_k(n)については自然数をいくつかの自然数の積で表す方法の数について - プライムスで詳しく紹介しました。

トーシェント関数については
\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{1}{\varphi (n)} =O(\log x)
\end{align}が成り立つことを証明なしで用います。*1

本題

次の評価を示します。証明は上の \tau_k (n)の記事の中における
\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\tau_k (n)^l}{n} \ll (\log x)^{k^l}
\end{align}の証明とまったく同様に進みます。

定理

任意の 自然数 k,l に対し

\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2 \tau_k(n)^l}{\varphi (n)} \ll (\log x)^{k^l}
\end{align}
が成立する。

証明 まず \tau_k (n)の定義と和の順序の交換により

\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2 \tau_k(n)^l}{\varphi (n)}
=\sum_{\substack{e_1,\dots , e_k \\ \prod_{i=1}^ke_i {<}x}}\frac{\mu (\prod_{i=1}^ke_i)^2 \tau_k(\prod_{i=1}^ke_i)^{l-1}}{\varphi (\prod_{i=1}^ke_i)}
\end{align}
とできる。和の中身はMöbius関数がかかっているので e_1,\dots ,e_kがpairwiseに互いに素なとき以外は0になる。したがって上の和は
\begin{align}
=\sum_{\substack{e_1,\dots , e_k \\ \prod_{i=1}^ke_i {<}x \\ (e_i,e_j)=1 \; (\forall i\neq j)}}\frac{\mu (\prod_{i=1}^ke_i)^2 \tau_k(\prod_{i=1}^ke_i)^{l-1}}{\varphi (\prod_{i=1}^ke_i)}
\end{align}
となる。この変形とそれぞれの関数の乗法性及び不等式
\begin{align}
\tau_k\Big{(}\prod_{i=1}^k n_i\Big{)} \le \prod_{i=1}^k\tau_k(n_i)
\end{align}により
\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2 \tau_k(n)^l}{\varphi (n)}
&\le
\sum_{\substack{e_1,\dots , e_k \\ \prod_{i=1}^ke_i {<}x \\ (e_i,e_j)=1 \; (\forall i\neq j)}}\prod_{i=1}^k\frac{\mu (e_i)^2 \tau_k(e_i)^{l-1}}{\varphi (e_i)}\notag \\
&\le
\Big{(}\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2\tau_k(n)^{l-1}}{\varphi (n)}\Big{)}^k
\end{align}
を得る。この不等式を繰り返し用いれば
\begin{align}
\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2 \tau_k(n)^l}{\varphi (n)}
\le
\Big{(}\sum_{n{<}x}\frac{\mu (n)^2}{\varphi (n)}\Big{)}^{k^l}
\ll (\log x)^{k^l}
\end{align}
を得る。(QED)

コメント

上の評価はEulerのトーシェント関数だけではなく分母を他のいろいろな関数に置き換えても似たことが言えると思います。

参考文献

(1) Small gaps between primes
James. Maynardによる双子素数に関する有名な論文です。
arXivのリンク→[1311.4600] Small gaps between primes

(2) 解析的整数論〈1〉素数分布論 (朝倉数学大系)

この本は解析的整数論、特に素数分布論についてかなり深く解説した本です。特に日本語の本ではめずらしい篩法を詳しく学べることが特徴です。ただし内容はかなり発展的になっていて、ある程度解析数論を学んだ人向けの本かもしれません。素数分布論を深く学びたい人はぜひ読んでみてください。

*1:たとえば Sitaramachandrarao : On an error term of Landau-IIを参照。いつかこれの解説書きます。