プライムス

大学院生の数学ノート

Dirichlet指標について

Dirichlet指標についてのまとめノートです。

一般の有限アーベル群上の指標についてはwww.mathnote.infoで解説しています。この記事からいくつか引用するのでご参照ください。

Dirichlet 指標の定義

Dirichlet指標とは乗法群 (\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}の指標を数論的関数として考えたものです。具体的には次のように定義されます。

定義1(Dirichlet指標)

qを自然数とする。数論的関数*1 \chi (n)が次の三つを満たすとき \chi (n)はmod qのDiriclet指標という。
(1) \chi (n)は完全乗法的な関数である
(2)  (n,q) =1ならば \chi (n) \neq 0
(3) n\equiv m \pmod{q}ならば \chi (n)=\chi (m)

一つ例として、\chi_0 (n)
\begin{align*}
\chi_0 (n) :=
\begin{cases}
1 \quad ( (n,q)=1)\\
0 \quad ( (n,q)\;{>}\;1)
\end{cases}
\end{align*}とするとこれはmod qのDirichlet指標になっています。この指標をmod q自明指標と呼びます。自明指標でないものを非自明指標と呼びます。

mod qの指標を考えることは乗法群 (\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}の指標を考えることと同値です。実際、mod qのDirichlet指標 \chi (n)を与えたとき \hat{\chi}
\begin{align*}
\hat{\chi}(n+q\mathbb{Z}):=\chi (n)
\end{align*}と置けば \hat{\chi}(\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}の指標になります。また逆に \hat{\chi}が与えられたとき
\begin{align*}
\chi (n)=
\begin{cases}
\hat{\chi}(n+q\mathbb{Z}) \quad &( (n,q)=1)\\
0 \quad &( (n,q)\; {>} \;1)
\end{cases}
\end{align*}と定義すれば mod qのDirichlet指標になります。したがって一般に群の指標に対して言えることはDirichlet指標にも言えることがわかります。

基本的な性質

ここで紹介する内容はすべて有限アーベル群の指標について - プライムスにて証明してあります。そのため、簡単なものを除いて証明は省くことにします。

補題2

 \chi (n)がmod qのDhirichlet指標なら |\chi (n)|=1\; (\forall (n,q)=1) )が成り立つ。

証明 合同式論におけるオイラーの定理 (数論) - Wikipediaより
\begin{align}
n^{\varphi (q)} \equiv 1 \pmod{q} \notag
\end{align}が成り立つ。したがってDirichlet指標の条件より
\begin{align}
\chi (n)^{\varphi (q)} =\chi (n^{\varphi (q)})=\chi (1)=1 \notag
\end{align}が成り立つ。したがって主張が成立する。(QED)

補題3

mod qのDirichlet指標全体は関数の積で自明指標を単位元とする群をなす。さらに群として (\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}と同型である。

証明 有限アーベル群の指標について - プライムスを参照

補題2と補題3よりmod qのDirichlet指標は全部で \varphi (q)個で、行き先は1の \varphi (q)乗根になります。これを考慮すれば定義から各法のDirichlet指標を具体的に計算することもできます。

定理4

\chiをmod qのDirichlet指標とする。このとき
\begin{align*}
\sum_{n=1}^{q-1}\chi (n) =
\begin{cases}
\varphi (q) \quad &(\chi =\chi_0 ) \\
0 \quad &(\chi \neq \chi_0)
\end{cases}
\end{align*}が成り立つ。

証明 \chi =\chi_0のときは補題3より明らか。\chi \neq \chi_0とすると (a,q)=1かつ \chi (a)\neq 1となる整数 aが取れる。このとき
\begin{align*}
\chi (a) \sum_{n=1}^{q-1}\chi (n) =\sum_{n=1}^{q-1}\chi (n)
\end{align*}であるから \chi (a) \neq 1より主張が従う。

定理5

自然数 nに対して
\begin{align*}
\sum_{\chi} \chi (n) =
\begin{cases}
\varphi (q) \quad &(n\equiv 1 \pmod{q} ) \\
0 \quad &(n \not \equiv 1 \pmod{q})
\end{cases}
\end{align*}が成り立つ。ここで和はmod qのDirichlet指標全体を走る。

証明 有限アーベル群の指標について - プライムスを参照

原始指標

一般の指標とDirichlet指標で異なることは原始指標の存在です。ここではDirichlet指標のうち原始指標と呼ばれるものを紹介します。

\chi_1を mod q_1のDirichlet指標とし q_1|qであるとします。このとき数論的関数 \chi (n)
\begin{align}
\chi (n)=
\begin{cases}
\chi_1(n) \quad &( (n,q)=1) \\
0 \quad &( (n,q)>1)
\end{cases} \label{Dirichlet ch1}
\end{align}と定義すると、これはmod qのDirichlet指標になることが確かめられます。\eqref{Dirichlet ch1}のように定義されるDirichlet指標 \chiを、\chi_1から生成されるDirichlet指標と呼ぶことにしましょう。原始指標は次のように定義されます。

定義6(原始的Dirichlet指標)

mod qのDirichlet指標 \chiが、q_1|qかつ q_1 {<}qなる法q_1のDirichlet指標から生成されるとき \chiを非原始指標と言う。そうでないとき \chiを原始指標という。

原始指標は言い換えると \chiを生成するDirichlet指標は \chiのみであるということです。非原始指標に対する議論は、明らかにそれを生成するDirichlet指標に帰着されます。したがって多くの場面で問題を原始指標の場合に帰着することができます。また原始指標にしか成り立たない便利な定理もあるため、原始的という概念は非常に重要です。

mod qのDirichlet指標は明らかに周期 qを持っていますが、非原始指標は次の定理7のようにある意味でより小さい周期をもつDirichlet指標であると考えることができます。

定理7

q_1|qとし \chiをmod qのDirichlet指標とする。このとき \chiがmod q_1の指標から生成されることと
\begin{align}
(n,q)=(m,q)=1 \mathrm{かつ} n \equiv m \; (q_1) \Rightarrow \chi (n)=\chi (m) \label{Dirichlet ch2}
\end{align}が成り立つことは同値。

定理8の証明の前に一つ補題を示します。

補題8

q_1,qを自然数とし (n,q_1)=1とする。このとき n \equiv m \; (q_1)かつ (m,q)=1となる mが存在する。

証明 自然数 t
\begin{align*}
t := \prod_{\substack{p|q \\ p \nmid n,q_1}}p
\end{align*}とする。ここで pは素数であり空積は1であるとする。m=n+tq_1と置けば明らかに n \equiv m \; (q_1)が成立。以下、 (m,q)=1を示す。
mqがどちらも素数 pで割り切れたとする。

(p|nのとき) このときmの定義より p|tq_1となるが、p|qであることと tの定義より ptを割り切らない。したがって p|q_1となる。しかしこれは (n.q_1)=1に矛盾する。

( p\nmid nのとき) このとき、もし p|q_1なら mの定義より p|nとなり矛盾する。したがって p\nmid q_1である。すると p|qであることと tの定義より p|tとなりやはり p \nmid nに矛盾。

したがってmqをどちらも割り切るような素数は存在しない。すなわち (m,q)=1が成立する。(QED)

それでは定理7を証明します。

定理7の証明 まず \chi がmod q_1のDirichlet指標 \chi_1から生成されるとする。このとき (n,q)=(m,q)=1かつ n\equiv m \; (q_1)ならば
\begin{align*}
\chi (n) = \chi_1(n)= \chi_1(m)=\chi (m)
\end{align*}となるから\eqref{Dirichlet ch2}が成立。
逆に\eqref{Dirichlet ch2}が成り立っているとする。このとき \chi_1

  • (n,q_1)>1のときは \chi_1 (n):=0
  • (n,q)=1のときは \chi_1(n):=\chi (n)
  • (n,q_1)=1かつ (n,q) {>}1のときは補題9で存在が保証される mをとって \chi_1 (n):=\chi (m)

と定めると、仮定より \chi_1mの取り方によらずwell-definedに定まる。したがって \chi_1はmod q_1のDirichlet指標となる。明らかに \chi_1\chiを生成するDirichlet指標になっている。(QED)

おわりに

原始指標は少し難しいですがL関数の理論などの基礎になるものです。

参考文献

(1) Multiplicative Number Theory (Graduate Texts in Mathematics 74)

(2) 素数とゼータ関数 (共立講座 数学の輝き)

*1:Dirichlet指標を \mathbb{Z}からの写像とみなすこともある。どちらでも議論に大差はない。