プライムス

大学院生の数学ノート

有限アーベル群の指標について

有限アーベル群の指標について勉強したことをまとめました。目下Dirichlet指標を調べるために必要と思われる事実について書きます。

予備知識

以下、有限アーベル群 Gの演算は掛け算の形で書きます。群論の知識が必要になり、とくに次の定理を認めて話を進めます。*1

定理1(有限アーベル群の構造定理)

Gが有限アーベル群なら、有限個の巡回群 G_1,\dots ,G_lが存在して
\begin{align*}
G \simeq G_1 \times \cdots \times G_l
\end{align*}が成立する。

詳しくは有限アーベル群の構造定理 - Wikipediaへ。

指標の定義

有限アーベル群 Gに対し、Gから 乗法群\mathbb{C}^{\times}=\mathbb{C}\setminus \{ 0\}への準同型
\begin{align*}
\chi : G \to \mathbb{C}^{\times}
\end{align*}をGの指標と呼びます。Gの二つの指標 \chi_1, \chi_2に対してその積を
\begin{align*}
(\chi_1 \chi_2 ) (g) := \chi_1 (g) \chi_2 (g) \quad (g \in G)
\end{align*}と定めます。

補題2

Gが位数 nの有限アーベル群で \chigの指標なら
\begin{align*}
\chi (g)^n=1 \quad (\forall g \in G)
\end{align*}が成り立つ。つまり \chiの像は1の n乗根。

証明 g\in Gに対して、gが生成する部分群 \langle g \rangle = \{ 1, g , g^2 ,\dots \}を考える。| \langle g \rangle|=mとすると g^m=1であり、Lagrangeの定理により m|nがわかる。したがって
\begin{align*}
g^n=(g^{m})^{n/m} =1
\end{align*}となる。指標の準同型性より
\begin{align*}
\chi (g)^n = \chi (g^n) =1
\end{align*}が従う。(QED)

補題3

有限アーベル群 Gの指標全体の集合を \widehat{G}とすると、\widehat{G}は指標の積で有限アーベル群をなす。これをGの指標群という。

証明 指標の積が閉じた演算であり、結合法則と可換性を満たすことは明らか。単位元は自明な指標
\begin{align*}
\chi_0 (g):=1 \quad (g \in G)
\end{align*}で与えられ、Gの指標 \chiの逆元は複素共役
\begin{align*}
\bar{\chi}(g):=\overline{\chi (g)} \quad (g \in G)
\end{align*}で与えられる。Gの元は有限個であり、1のべき根( Gの位数乗根)も有限個であるから、それらの対応である指標も有限個であるから、\widehat{G}は有限アーベル群となる。(QED)

指標の拡張

有限アーベル群 Gの部分群の指標について考えます。

補題4

Gが有限アーベル群、HをGの部分群とする。このとき任意の Hの指標 \chiに対して、Gの指標 \tilde{\chi}が存在して
\begin{align*}
\chi (h)=\tilde{\chi}(h) \quad (\forall h \in H)
\end{align*}が成り立つ。つまり \chiGへの指標の拡張が存在する。

証明 商集合の元の個数 | G/H |に関する帰納法で証明する。

(| G/H |=1のとき) このとき H=Gであるから \tilde{\chi}:=\chi とすればよい。

以下 | G/H |\le k で主張が成立していると仮定し、 | G/H |=k+1の時をいくつかのStepに分けて示す。

(Step1)このとき g \in G \setminus Hとなる gを取ることができる。少なくとも
\begin{align*}
g^{|G|}=1 \in H
\end{align*}であるから、g^n \in Hとなる自然数 n\ge 2が存在する。そのような nで最小であるものを n_0とし、さらに \omegaを方程式
\begin{align*}
\omega^{n_0} =\chi (g^{n_0})
\end{align*}の一つの根とする。 gHが生成する Gの部分群を H'とすると、n_0の最小性より H'の元 h'
\begin{align*}
h'=hg^a \quad (h \in H, 0 \le a {<} n_0)
\end{align*}の形に一意に表示することができる。H'から \mathbb{C}^{\times}への写像 \chi'
\begin{align*}
\chi' (h g^a):= \chi (h) \omega^a
\end{align*}と定める。

(Step2) 上で構成した \chi'H'の指標であること、つまり群準同型写像であることを示す。h_1,h_2 \in H, 0 \le a_1,a_2 {<} n_0として
\begin{align*}
\chi' (h_1g^{a_1} \cdot h_2 g^{a_2} ) = \chi' (h_1g^{a_1})\chi'(h_2g^{a_2})
\end{align*}を示せばよい。
a+a' {<} n_0のときは
\begin{align*}
\chi'(h_1g^{a_1} \cdot h_2 g^{a_2} )&=\chi' (h_1h_2)\omega^{a_1+a_2} \notag \\
&=\chi' (h_1g^{a_1})\chi'(h_2g^{a_2})
\end{align*}となる。一方 a_1+a_2 \ge n_0のときは 0 \le a_1+a_2-n_0 {<} n_0であるから
\begin{align*}
\chi'(h_1g^{a_1} \cdot h_2 g^{a_2} )&=\chi' (h_1h_2g^{n_0})\omega^{a_1+a_2-n_0}
\end{align*}であり \omega^{-n_0}\chi (g^{n_0})=1に注意して
\begin{align*}
=\chi' (h_1g^{a_1})\chi'(h_2g^{a_2})
\end{align*}を得る。したがって \chi'は準同型になる。

(Step3) \chi'はその定義より
\begin{align}
\chi' (h)=\chi (h) \quad (\forall h \in H) \label{sihyou1}
\end{align}を満たす。さらに H'H \subsetneq H' \subset Gなる部分群であるから
\begin{align*}
{|} G/H' | {<} {|} G/H | =k+1
\end{align*}となる。したがって帰納法の仮定より \chi'Gへの拡張 \tilde{\chi}が存在する。この Gの指標 \tilde{\chi}は\eqref{sihyou1}より明らかに \chiの拡張になっている。(QED)

指標群の構造

群としての指標の性質を考えていきます。目標は有限アーベル群の指標群は常にもとの群と同型であることを証明することです。
補題5

k個の有限アーベル群 G_1, \dots ,G_kとその直積群に対して
\begin{align*}
\widehat{G_1 \times \cdots \times G_k} \simeq \widehat{G_1}\times \cdots \times \widehat{G_k}
\end{align*}が成立。

証明 2個のときに証明すればあとは帰納的に成り立つので k=2として証明する。\chi (g_1, g_2)を直積群 G_1 \times G_2の指標とする。このとき G_1の指標 \chi_1G_2の指標 \chi_2をそれぞれ
\begin{align*}
\chi_1 (g_1) := \chi (g_1, 1) \quad &(g_1 \in G_1)\\
\chi_2 (g_2) := \chi (1, g_2) \quad &(g_2 \in G_2)
\end{align*}で定め、写像 \rho : \widehat{G_1 \times G_2} \to \widehat{G_1}\times \widehat{G_2}
\begin{align*}
\rho (\chi )= (\chi_1, \chi_2) \quad ( \chi \in \widehat{G_1 \times G_2})
\end{align*}で定める。

(\rhoが準同型であること) 自明である。

(\rhoが単射であること)  \; \mathrm{ker}(\rho )=\{ \mathrm{自明な指標} \}であることを示せばよい。もし \chi_1,\chi_2のどちらも自明な指標であるなら任意の g_1 \in G_1, g_2 \in G_2に対して
\begin{align*}
\chi (g_1, g_2) = \chi (g_1,1) \chi (1, g_2)= \chi_1(g_1) \chi_2 (g_2) =1
\end{align*}となる。したがって \chiは自明な指標であるから \rhoは単射である。

(\rhoが全射であること) \; (\chi_1 ,\chi_2 ) \in \widehat{G_1}\times \widehat{G_2} に対して \chi (g_1,g_2) =\chi (g_1) \chi (g_2)と定めれば \rho (\chi )=(\chi_1, \chi_2)となるので全射である。

以上より \rhoは同型写像であるから主張が従う。(QED)

補題6

Gが位数 nの巡回群なら
\begin{align*}
G \simeq \widehat{G}
\end{align*}が成立。

証明 Gの生成元を gとすれば G=\langle g \rangleである。位数 nの巡回群は加法群 \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}と同型なので補題6を示すためには
\begin{align*}
\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \simeq \widehat{G}
\end{align*}を証明すればよい。これを準同型定理を用いて示す。\zeta = \mathrm{exp}((2 \pi i)/ n)と置き、a \in \mathbb{Z}に対して Gの指標 \chi_a
\begin{align*}
\chi_a (g) = \zeta^a
\end{align*}となるもので定め、さらに準同型写像 \rho : \mathbb{Z} \to \widehat{G}
\begin{align*}
\rho (a) := \chi_a
\end{align*}で定める。\zetaが1の原始 n乗根であることから \mathrm{ker}(\rho )=n\mathbb{Z}が従う。一方で任意の Gの指標 \chiに対して、補題2より \chi (g)は1の n乗根であるから、ある整数 a
\begin{align*}
\chi (g) =\zeta^a
\end{align*}となる。これは \rho (a)= \chiを意味するから \rhoは全射準同型である。したがって準同型定理を用いれば
\begin{align*}
\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \simeq \widehat{G}
\end{align*}が従う。(QED)

以上の補題より目標としていた同型を示すことができます。

定理7

有限アーベル群 Gに対して
\begin{align*}
G \simeq \widehat{G}
\end{align*}が成立。

証明 定理1を用いればGは有限個の巡回群によって
\begin{align*}
G \simeq G_1 \times \cdots \times G_l
\end{align*}と表せる。したがって補題5と補題6を用いれば
\begin{align*}
\widehat{G} &\simeq \widehat{ G_1 \times \cdots \times G_l} \\
&\simeq \widehat{G_1}\times \cdots \times \widehat{G_l} \\
&\simeq G_1 \times \cdots \times G_l \simeq G
\end{align*}が言える。(QED)

指標の和

ここでは非常に重要な二つのタイプの指標の和について考えます。まず一つ目です。

定理8

\chi Gの指標とする。このとき
\begin{align*}
\sum_{g \in G} \chi (g) =
\begin{cases}
{|}G | \quad &( \chi : \mathrm{自明な指標}) \\
0 \quad &( \mathrm{その他})
\end{cases}\end{align*}が成立。

証明 自明な指標の場合は明らかである。\chiが自明な指標ではないとすると \chi (a) \neq 1となる a\in Gが存在する。g \mapsto agなる Gの間の写像が全単射であることから
\begin{align*}
\chi (a) \sum_{g \in G} \chi (g) = \sum_{g \in G} \chi (g)
\end{align*}となるが、\chi (a) \neq 1より
\begin{align*}
\sum_{g \in G} \chi (g) =0
\end{align*}でなければならない。(QED)

二つ目のタイプを考える前に一つ補題を証明します。

補題9

Gを有限アーベル群とし、g\in Gに対し\widehat{G}の指標\rho_g
\begin{align*}
\rho_g (\chi) = \chi (g) \quad (\chi \in \widehat{G})
\end{align*}で定める。このとき写像
\begin{align*}
\rho : G \to \widehat{\widehat{G}}\;, \;g \mapsto \rho_g
\end{align*}は同型写像である。

証明 \rhoGから \widehat{\widehat{G}}への準同型であることは明らか。定理7より G \simeq \widehat{\widehat{G}}であるから、特に {|}G{|} = {|} \widehat{\widehat{G}} {|}がわかる。したがって \rhoが単射であることを示せば補題9が証明される。
まず |G|=1なら \rhoが単射であることは明らか。|G| >1とする。このとき
\begin{align}
g \neq 1 \Rightarrow \exists \chi \in \widehat{G} \; \mathrm{s.t.}\; \rho_g (\chi) \neq 1 \label{sihyou2}
\end{align}を示す。gが生成する Gの巡回部分群 H=\langle g \rangleを考えると、g \neq 1より  | \widehat{H} | =|H| \ge 2であるから Hの非自明指標 \chiが存在する。一方で、もし \chi (g)=1となるなら \chiHの自明指標となるから、\chi (g) \neq 1となる Hの指標が存在しなければならない。補題4よりこの Hの指標 \chiGの指標 \tilde{\chi}に拡張され
\begin{align*}
\rho_g (\tilde{\chi})=\tilde{\chi} (g)=\chi (g) \neq 1
\end{align*}となるから\eqref{sihyou2}が示された。\eqref{sihyou2}の対偶を取れば \mathrm{ker}(\rho )=\{ 1 \}であることがわかる。したがって \rhoは単射である。
以上より \rhoが同型写像であることが示された。(QED)

補題9より二つ目のタイプの指標の和を計算できます。

定理10

g\in Gに対し
\begin{align*}
\sum_{\chi \in \widehat{G}}\chi (g) =
\begin{cases}
{|} G | \quad &(g=1)\\
0 \quad &(g\neq 1)
\end{cases}
\end{align*}が成り立つ。

証明 g=1のときは明らか。g\neq 1とすると、補題9で構成した \rho_gは非自明な \widehat{G}の指標となる。したがって定理8を用いれば
\begin{align}
\sum_{\chi \in \widehat{G}} \rho_g (\chi )=0
\end{align}がわかる。\rho_gの定義よりこれは定理10を意味している。(QED)

おわりに

有限アーベル群の指標について勉強しました。個人的に具体的な例としてDirichlet指標に興味がありますが、一般に群として扱うことより分かりやすい議論ができました。群論って便利だけどムズイよね。

参考文献

よしいずさんがという方が運営されているMATHEMATICS.PDFにて公開されているPDFを参考にしました。

*1:この記事内の内容はこの定理を経由せずに証明することも可能。