プライムス

大学院生の数学ノート

ABC予想の証明が無事アクセプトされたようです。

4月3日付で京都大学(RIMS)教授の望月先生の書かれたABC予想についての論文が数学の専門雑誌「PRIMES」に掲載されるとの報道がありました。

www.nikkei.com

望月先生、おめでとうございます。
そこで今回はABC予想とはなにかについて紹介します。

ABC予想は整数論のお話です

ABC予想とは数学の中でも整数論と呼ばれる分野に分類される予想です。その名の通り整数論とは整数  \dots ,-2,-1,0,1,2,\dotsの性質を調べる分野です。整数論といえば有名なのがFermatの最終定理ですよね!Fermatの最終定理とは自然数 nに対して
\begin{align}
x^n+y^n=z^n \label{Fe}
\end{align}の自然数の解を考える問題に関する定理です。このように方程式の自然数(または整数)の解を探すという問題をDiophantus方程式論と呼んだりします。ちょっとだけ式\eqref{Fe}について考えてみましょう。

(n=2の場合) この場合は、たとえば  x=3,y=4,z=5とすれば
\begin{align}
3^2+4^2=5^2
\end{align}となって式\eqref{Fe}を満たすことがわかります。もっと一般に、任意の自然数 m>nに対して
\begin{align}
x=m^2-n^2,y=2mn,z=m^2+n^2
\end{align}とおけば x,y,zは式\eqref{Fe}を満たす自然数の組になっていることが分かります。
このように  n=2では自然数解が(無限に)存在することが分かります。

ちなみに n=2の場合のは直角三角形に関する三平方の定理(Pythagorasの定理)と関係が深くて、式\eqref{Fe}を満たす自然数の組をPythagoras数と呼んだりします。

では n\ge 3の場合はどうでしょうか? x=y=z=0を代入すれば式\eqref{Fe}が成立することは明らかですね*1。他の場合はどうでしょう…

実は n\ge 3の場合、式\eqref{Fe}の自然数解は存在しないことが証明されています!それがいわゆるFermatの最終定理です。

定理(Fermatの最終定理)

n\ge 3のとき式\eqref{Fe}を満たす自然数 x,y,zは存在しない。

この定理は17世紀に数学者Pierre de Fermatによって予想され、それからなんとおよそ360年も後に数学者Andrew Wilesによる高度な手法を用いることで証明されました。
この定理は360年も未解決だったことや定理の主張が簡単なこと、ネーミングのかっこよさなどが相まって数学とは無縁な人にまでその名が広く知られることとなりました。
Wilesの論文は数学の論文としてはわりと長めの129ページもあり、使われている道具も代数幾何学という数学系大学生憧れがちの一大理論だったりして簡単に理解できるものではありません(わたしはまっっったく読めないです)。
そこで出てくるのがABC予想です。実は世紀の大定理であるFermatの最終定理はABC予想を認めるとあっさりと証明できるのです。

ABC予想

ではABC予想について紹介したいと思います。まず自然数 nに対して  \mathrm{rad}(n)なる量を定義します。

定義(自然数の根基)

自然数 nは素因数分解が
\begin{align}
n=p_1^{r_1}p_2^{r_2}\cdots p_t^{r_t}
\end{align}と与えられているとする。このとき \mathrm{rad}(n)
\begin{align}
\mathrm{rad}(n)=p_1p_2\cdots p_t
\end{align}と定め、これを nの根基と呼ぶ。つまり根基は nの相異なる素因子の積。

例をいくつか計算してみましょう。

例1 \mathrm{rad}(6)=2\cdot 3=6
例2 \mathrm{rad}(20)=2\cdot 5 =10
例3 素数 pに対しては \mathrm{rad}(p)=p

定義より一般に \mathrm{rad}(n)\le nとなることもわかりますね。

さて、特に数学において興味があるのは、互いに素な3つの自然数 a,b,c
\begin{align}
a+b=c \label{abc}
\end{align}という関係にあるときの abcの根基 \mathrm{rad}(abc)についてです。

具体的に式\eqref{abc}を満たす a,b,cを取って \mathrm{rad}(abc)を計算してみましょう。
例1 a=2,b=3,c=5とすると \mathrm{rad}(abc)=\mathrm{rad}(30)=30
例2 a=4,b=5,=c=9とすると \mathrm{rad}(abc)=\mathrm{rad}(180)=30

皆さんもお手元に紙を用意して実際にいくつか計算してみましょう!


\begin{align*}
\cdots \; \mathrm{計算中} \; \cdots
\end{align*}
では計算結果を観察してみましょう!お手元の計算結果では
\begin{align}
c< \mathrm{rad}(abc) \label{3}
\end{align}が成り立ってはいませんか?

どうやらあれこれ計算しても大抵は式\eqref{3}が成り立つみたいです。

では逆向きの不等式
\begin{align}
\mathrm{rad} (abc)<{c} \label{4}
\end{align}を満たすような自然数 a,b,cは見つけられるでしょうか?

実は以下のように逆向きの不等式を満たす組 a,b,cを見つけることができちゃいます。

命題

自然数  nに対して式\eqref{abc}を満たす3つの自然数 a,b,c
\begin{align}
a=1,b=3^{2^n}-1,c=3^{2^n}
\end{align}と置く。このとき任意の自然数 nに対して不等式\eqref{4}が成立する。

証明 3^{2^n}-1を因数分解すると
\begin{align}
3^{2^n}-1=(3^{2^{n-1}}+1)(3^{2^{n-1}}-1)
\end{align}となる。同様の操作を繰り返せば

\begin{align}
=(3^{2^{n-1}}+1)(3^{2^{n-2}}+1)\cdots (3^2+1)(3+1)(3-1)
\end{align}
と因数分解できる。3+1=42^2で割り切れることとその他の因子が全て2の倍数であることを考慮すれば b=3^{2^n}2^{n+2}で割り切れることがわかる。したがって根基の定義より
\begin{align}
\mathrm{rad}(abc)&=\mathrm{rad}(3^{2^n}-1) \mathrm{rad}(3^{2^n}) \\
&\le 6 \cdot \frac{3^{2^n}-1}{2^{n+2}} < \frac{3}{2^{n+1}}3^{2^n} =\frac{3}{2^{n+1}}c
\end{align}
となる。最後の cの係数は1より小さいので主張が示された。(QED)

残念ながら不等式\eqref{4}を満たす a,b,cを無限個見つけることができてしまいました。しかし式\eqref{3}を満たす自然数が圧倒的にたくさんあるのも事実です。そこで\eqref{4}の根基の部分をすこーしだけ大きくしたらどうでしょうか?

それこそがABC予想なのです。

ABC予想

任意の \varepsilon >0に対し、互いに素な自然数 a,b,cで\eqref{abc}を満たすもので
\begin{align}
(\mathrm{rad}(abc))^{1+\varepsilon} <{c}
\end{align}を満たすものは有限個しか存在しない。

アルファベットのa,b,cが使われるのでABC予想と呼ばれます。望月先生が証明したのはこれだったのですね!

ABC予想とFermatの最終定理

ではFermatの最終定理をABC予想のもとで示してみましょう。ただ、上のABC予想をそのまま使うと話が少し複雑になるのでここでは次の修正版ABC予想を仮定したいと思います。

修正版ABC予想

互いに素な自然数 a,b,cで\eqref{abc}を満たすもので
\begin{align}
(\mathrm{rad}(abc))^2<{c}
\end{align}を満たすものは存在しない。つまり常に
\begin{align}
c \le (\mathrm{rad}(abc))^2
\end{align}となる。

※望月教授が証明したのは修正前のABC予想であって、修正版ABC予想ではありません。わかりやすさのためにここでは修正版を用いています。

定理

修正版ABC予想が成立するならFermatの最終定理が成立する。

証明 互いに素な自然数 x,y,zx^n+y^n=z^nを満たしていると仮定する*2。このとき
\begin{align}
x^n , y^n < x^n+y^n=z^n
\end{align}であることと修正版ABC予想より
\begin{align}
z^n \le (\mathrm{rad}(x^n y^n z^n))^2 =(\mathrm{rad}(xyz))^2 \le (xyz)^2 < z^6
\end{align}
となる。これより n<6が従うがその場合はEuler、Fermat、Dirichletなどによって示されている。したがってFermatの最終定理が示された*3。(QED)

少し修正が必要ですがABC予想を認めれば360年間未解決だった超難問も解けてしまうのですね。ABC予想の凄さが分かった気がします。

ふとした疑問

ふと思ったのですがABC予想を次の形にしたらどうなるのでしょうか?

問題提起

a+b=cを満たす互いに素な自然数で
\begin{align}
\mathrm{rad}(abc)\log (\mathrm{rad}(abc)) {<} c
\end{align}となるものは有限個しか存在しないか?

もし何か思いついたらコメントください!

おわりに

ABC予想について勉強してきました。Fermatの最終定理以外にもABC予想やその類似から導ける数学的に重要な問題がたくさんあります。ABC予想はとっても重要なのですね。ところでWilesによるFermatの最終定理の証明は129ページもある長くて難しい論文だったのですが、望月先生の論文はどうなのでしょうか。実は今回ニュースになった論文はなんと驚愕の600ページ越えだそうです(辞書か!)。最初に提出されてから論文の正しさが認められるまでになんと8年もかかっています!望月先生ほんとうにすごい!

参考文献

(1) ABC予想入門 (PHPサイエンス・ワールド新書)

この本ではABC予想について学びながら、その周辺の話題やリーマン予想などの他の数学の問題とのかかわりを知ることができます。

(2) 宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

この本ではABC予想を証明するために望月先生がもちいた手法「IUT理論」について一般向けに紹介されています。

*1:私は自然数は0を持たない立場にいるが、わかりやすさのため代入した。

*2:互いに素でないときは最大公約数で割ればOK。

*3:修正していないABC予想からは十分大きな自然数 nに対してFermatの最終定理が示せる。